研究詳細その2

疾患モデルゼブラフィッシュを使ったペルオキシソーム病の病態解明

ペルオキシソーム形成異常症は、ペルオキシソームそのものが細胞内できちんと作られないことが原因の疾患です。ペルオキシソームを作るための遺伝子(PEX遺伝子群)が変異することで生じます。現在までに13の遺伝子座が疾患の原因として同定されています。ペルオキシソームで代謝される複数種の物質についてその代謝に影響が及び、過剰に蓄積したり(極長鎖脂肪酸や、分枝脂肪酸など)、欠乏したり(プラズマローゲンなど)します。 

原因となった遺伝子が完全に機能を損失した場合には重症型となり、出生時において脳や腎臓、肝臓の発生異常や機能障害、骨形成異常、白内障や網膜変性等の眼性症状、筋緊張低下による運動機能障害など重篤な病態を示します。一方、ミスセンス変異やインフレーム欠失などによって原因遺伝子の機能低下を伴う場合には比較的軽症となりますが、成長とともに重症型と同様の症状が出現します。

当研究室ではペルオキシソーム形成異常症の病態解明と治療方法の探索のため、疾患モデルを利用した研究を行っています。

これまでの研究成果

Takashima et al., 2021. Molecular genetics and metabolism 133(3) 307-323. [link]

Zebrafish model of human Zellweger syndrome reveals organ-specific accumulation of distinct fatty acid species and widespread gene expression changes.
 
ゼブラフィッシュのpex2遺伝子に遺伝子編集技術 (TALEN法) を使って変異を加え、pex2 遺伝子が機能しないゼブラフィッシュ(疾患モデルフィッシュ)を作出しました。この疾患モデルフィッシュでは、運動(遊泳)障害、摂食不良、脂肪肝を伴う肝臓障害、短寿命などのヒト患者と同様の病態を示します。また極長鎖脂肪酸や分枝脂肪酸の蓄積、エーテルリン脂質の低下など、やはりヒト患者と同様の代謝異常も示します。
 
疾患モデルフィッシュが示す遊泳不全。うまく姿勢を保てていない。
動画から複数のフレームを抜き出して重ね合わせ表示をしています。


 
 
水槽の底に横たわってしばらく動かないこともある。
10sで水槽をたたき刺激を与えると泳ぎだす。上から撮影。
 
極長鎖脂肪酸の代謝異常について詳しく調べた結果、肝臓で蓄積する極長鎖脂肪酸と、脳や眼で蓄積する極長鎖脂肪酸の種類が異なっており、特に脳や眼では炭素数がとても長い脂肪酸("超"極長鎖脂肪酸)が蓄積していることがわかりました。臓器ごとに病態の発症にかかわる脂肪酸が異なる可能性が判明しました。

増えた脂肪酸は赤で、減った脂肪酸は青で示している。

また、遺伝子発現変動を解析した結果、疾患モデルフィッシュの筋肉では筋肉の機能を制御するトロポニンやパルブアルブミン等の発現が低下していること、眼ではレンズタンパクのクリスタリンの発現が低下していることがわかりました。これらの遺伝子発現低下が、筋緊張低下による運動障害や、白内障などの患者病態を引き起こしていることが示唆されました。

疾患モデルフィッシュの詳細な解析から本疾患の病態理解を深め、治療の役に立つ知見や方法を得ることを目的に研究をつづけています。
 

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